伏見邸



撮影:堀内広治

解説

外装について

 

写真の外装のすべてをデザインしています。デザイン的に見る我々と、構造的に見る大工の棟梁(とうりょう)との間で随分もめました。和風のデザインの場合、地域性その他かなり複雑な要素が関わってきます。互いに相手の要素を無視しているわけでは有りませんが、こだわるところが違っていたようです。しかし、そういったぶつかり合いを真剣にすればする程、勉強にもなり楽しくもあります。どうせやるなら、そういう棟梁といつもやりたいものです。

 

玄関について

 

玄関のデザイン例です。日本の住宅の玄関は、年齢と共に昇降に負担が掛かるスペースですから、靴を履きやすくするベンチや、手すりなどを設けることだけでも身体が楽になります。施主は高齢の方ですが、その基準でデザインすることは、若い人にとっても使いやすいものとなります。身体のことはその立場や状態にならないと、本当に理解するのは無理です。ですからデザインする側は、少しでも相手の立場に近づく努力が必要です。

 

和室(2間続き)について

 

2間続きの和室の例です。材木の一本一本まで吟味しています。この空間のデザインには、材木屋さんと工務店さんの力添えが随分ありました。協力いただいた方々と材木屋さんの大きな倉庫の中で、隅々歩き回りいろいろなものを見せてくれました。こちらがこだわって、ひとつひとつ良い悪いの意見を言っていると、まいったなと言いながら、奥に隠してあるものまで出してくれ、材木談義に夜遅くまで花が咲いたのを思い出します。おかげでとてもいい材料を使うことが出来ました。この手の空間は、お金だけでは図れないものが結果になり、それがまた面白いと思います。

 

水屋について

 

住宅の一部に設けた水屋の例です。一般住宅の場合、本格的な茶室まで設けるのはなかなか出来ません。そこで和室に炉をきって茶事が出来るようにとするのですが、その場合でも出来る限り、機能よりもその雰囲気に浸れるようにと意識します。明かりの取り方や空間のバランス、材料などで少しでもそれが出せたらと思います。私は子どもの頃にお茶の師範だった母に教わった作法を、いいかげんにしか聞いていません(特に正座が苦手で)でした。後にその奥深さを知り、京都などにせっせと行ってみても、やはりなんでも若い感性のうちに出来るだけ経験すべきと後悔先に立たずです。

 

ダイニングについて

 

キッチン、ダイニング、茶の間と一連の流れで使用できる部屋です。ダイニングテーブルは北欧のもので、いざという時にはかなりの大きさまで、伸ばすことが出来る構造になっています。椅子はおなじみYチェアーですが、過去に提案したところでは、皆いい味が出てきています。当事務所の経験では、ダイニングにはこの椅子が最も喜ばれているケースが多くなっています。長く使えば使うほど皆さん実感しているようです。茶の間部分はわざと段差をつけ、高齢の施主がいざという時に座ってくるりと回り、掘りごたつのほうへ移動できるようにと考えました。段差が必ずしも悪いとはいえません。

 

オリジナルキッチンについて

 

すべてを当事務所でデザインした、オリジナルのキッチンです。キッチンの設計は、女性の意見を全面的に取り入れ、さまざまなアイディアを盛り込んでいきます。面材はメープル材を使用し、スライドチョウバンなど、見えない部分の金具にドイツ製のものを使用し、丈夫にしてあります。しかし、市販の同グレードのシステムキッチンと比べて、半額程度で製作出来ました。一般には知られていませんが、そういったことをベンチャー的に熱心に努力している、制作会社のおかげです。そこには海外を飛び回って企業努力をする社長がいますので、心強い味方ですね。現代はひとつの答えを出すのにさまざまな方法がありますので、既製の概念だけではいい仕事は出来ないものです。

 

トイレについて

 

広いトイレですが、施主が車椅子使用で大丈夫なように設計しました。右側の見えない部分には、手すり等が設置されています。また入口扉は介護の可能性を考え、開け放しが出来るよう引き戸にしています。一般家庭で今は敬遠されがちな、小さいモザイクタイルを便器とは離れた汚れにくい壁に貼り、間接照明で綺麗に反射するようにしました。このトイレは当時最高級の便座を使用したのですが、リモコンでしか操作できず、操作が分からないことで、来訪者は皆困ったようです。

 

お風呂について

 

十和田石と、天然木でありながら、水に強い特殊加工の材料を使った、壁と天井です。石の高くなった部分に座りながら、シャワーや身体を洗え、また腰をずらして足からバスタブに入れるような構造になっています。蛇口やシャワー位置など、しゃがむ必要が一切無いように考えてあります。アールの縦パイプも、その動きの一環で使用できるようになっています。